アラフォー会社員は、上司の背中を追いかける。

人との関わり

「今日、ちょっといいかな?」

仕事が終わる少し前。

上司にそう声をかけられた。

何か話でもあるのかと思っていると、

「行くぞ。」

時刻は17時ちょうど。

そして周りに向かって、

「みんな今日は早く帰るように。」

とだけ言った。

なんだこれ。

何か怒られるのか。

それとも、ただ飲みに行くだけなのか。

よく分からないまま、上司と二人で店へ向かった。

普段の上司は、かなりぶっきらぼうだ。

説明が足りない。

急に仕事を振ってくる。

言い方に腹が立つこともある。

何を考えているのか分からない時もある。

そして自分も、それなりに文句を言ってきた。

そんな上司とサシ飲み。

とりあえずビールで乾杯した。

仕事の話。

職場の話。

どうでもいい話。

酒が進むにつれて、少しずつ昔の距離感に戻っていった。

今のように上司と部下として構える前。

一緒に忙しい時期を走っていた頃のような感覚だった。

思えば、若手の頃は上司に色々と助けられた。

昼休憩もろくに取れず、

気付けば時計は21時近く。

そんな日も珍しくなかった。

「今日はもう帰っていいぞ。」

何度、この言葉を聞いただろう。

上司は自分たちを先に帰した。

そして次の日。

少しでも昨日の仕事を片付けようと早く出社する。

それでも、必ず上司はデスクにいた。

何時に来てるんだ、この人。

少しでもこの人の負担を減らしたかった。

早く一人前になりたかった。

だから必死で食らいついて、一緒に働いた。

一つ終われば、また次。

また終われば、その次。

文句も言った。

腹が立ったこともある。

それでも、休む暇もないような時期を、なんだかんだ二人で乗り越えてきた。

そしてようやく、

自分でも少しは役に立てるようになってきた。

やっと二人で波に乗れた。

そんなふうに思い始めた頃だった。

突然、上司の昇格と部署異動が決まった。

「そんなの聞いてないですよ。」

本当にそう思った。

やっと一緒に仕事ができるようになったと思ったのに。

上司はいつもの調子で、

「2年待っててくれ。」

とだけ言った。

何を2年待つのか。

その時は、よく分からなかった。

上司は異動した。

自分は、その部署に残った。

そんな昔話をしながら酒を飲む。

「色々ありましたよね。」

「まあな。」

それだけだった。

でも、たぶんそれで十分だった。

全部好きなわけではない。

今でも文句はある。

それでも、

忙しい時に逃げなかった人だということは知っている。

自分が若手だった頃、

何度も助けてもらったことも覚えている。

会社で長く働いていると、

「尊敬できる上司か」

「嫌いな上司か」

そんなに綺麗に分けられない人が増えてくる。

嫌なところも知っている。

良いところも知っている。

だからこそ、

全部納得していなくても、仕事ぶりは認めている。

そんな関係もあるんだと思う。

ビールからレモンサワー。

その次はウーロンハイ。

だいぶ酒も進んだ。

気が付くと、自分ばかり話していた。

上司は妙に聞き役に徹している。

……おかしい。

普段なら途中で何かしら言ってくる人だ。

今日は妙に静かだ。

そんなことを考えていると、

「最近、色々頼んで悪かったな。」

突然、上司が言った。

「なんですか、急に。水臭いですね。」

「査定も悪いようにはしてないだろ?」

「少し厳しい気もしますけど。」

「お前なあ。」

二人で笑った。

そして少し間を置いて、上司が続けた。

「俺はな、お前のこと頼りにしてるんだからな。」

まただ。

今日はやけに褒める。

何かある。

「若い子もそうだし、他の部署の人間も、お前のこと頼りになるって言ってるぞ。」

確信に変わった。

絶対に何かある。

でも、その言葉を聞きながら、

少しだけ昔のことを思い出していた。

若手の頃は、

上司の負担を少しでも減らしたくて働いていた。

早く一人前になりたかった。

あの頃は、

頼る側だった。

それがいつの間にか、

「頼りにしてる」

と言われる側になっている。

経験年数が増えるというのは、

できる仕事が増えることだと思っていた。

もちろん、それもある。

でも最近は、

頼られる相手が増えることなのかもしれないと思う。

後輩から頼られる。

他部署から頼られる。

そして時には、上司からも頼られる。

頼られるのは悪い気はしない。

必要とされているということでもある。

でも。

頼られるということは、

だいたい仕事も一緒についてくる。

「これからもよろしく頼むよ。」

上司はそう言うと、

テーブルの伝票をさらっと持って席を立った。

「あ、そうだ。」

ほら来た。

「来月から本部の人が来るから、対応よろしく。」

「……はい?」

「3ヶ月な。」

そのままレジへ向かっていく。

やっぱり。

何かあると思った。

グラスに残ったウーロンハイを飲み干す。

少しだけ、昔と同じような気がした。

あの頃は、この人に追いつきたくて後ろを追いかけていた。

今は、仕事を一つ増やされて追いかけている。

席を立ち、その背中を追う。

「ごちそうさまでした。」

上司は振り返らず、

「そういうことで、よろしく。」

とだけ言った。

色々ありましたよね。

そしてたぶん、

これからも色々ありそうだ。

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