アラフォー会社員は今日も板挟み。—上司と部下の間で。

社会人になって、15年目。

お盆も終わりかけた頃、突然セルフエントリーシートの課題が出された。

経験年数は関係ない。
部署全員が対象らしい。

なんでこの時期に。

やるなら年明けあたりに「来年度へ向けて」とかじゃないのか。

期限は1ヶ月。

まだ時間はある。

……。

このまま置いておいて、締め切り間際になって、

「全然できてない。」

そう言っている自分が見える。

こういう時は先手を打つ。

仕事がひと段落したところで、上司に声をかけた。

「少し時間いいですか?」

セルフエントリーシートを見てもらう。

自分が書いたのは、

「部署の目指す方向性をクリアにして、日々の業務にベクトルを持つ。」

自分なりには、それっぽく書けた気がする。

上司はしばらくシートを見ていた。

「お前、自主性が足りないんじゃないか?」

……自主性。

部署が目指しているところ。
上司が求めているところ。
自分が考えているところ。

少しズレているらしい。

自分の短所だけを並べればいいわけでもない。

今できていること。
足りないこと。
これから何をするのか。

「ありがとうございます。ざっと下書きができたら、また確認お願いします」

少しだけ方向が見えた。

それから数日。

上司がオフィスで声を上げた。

「エントリーシート、みんな進んでるか?」

……。

静かだ。

何人かが順番に呼ばれていく。

それぞれ考えてきたことを話しているようだ。

「全然できてないじゃないか」

静かだったオフィスが、さらに静かになった。

キーボードを叩く音だけが、やけに聞こえる。

「教育担当はどうした?」

……。

「この3人のこと、誰か見てやってくれないか?」

……。

ちらっと上司と目が合う。

「……やります」

一番当たりが強かった後輩のところへ、ササッと向かった。

「どう?」

「いつも、これで合ってるか心配で……」

少し間を置いて続ける。

「もっと早く持ってこいって、いつも言われるんです」

ふとデスクを見る。

綺麗に整理されている。

肌身離さず持っているメモ帳には、綺麗な字がびっしり並んでいる。

書類にも誤字脱字はほとんどない。

仕事も堅実そのもの。

……遅いのか。

いや、慎重なのか。

「急ぐ仕事と、確実にやる仕事を少し分けてみたら?」

慎重なのは悪くない。

あとは、仕事の緊急性を意識する。

それだけでも少し変わるかもしれない。

次は新人。

「何かと、いつも自分ばっかりなんです」

メモ帳を片手に、少し愚痴混じりに嘆いている。

「それで、いつも仕事が中断しちゃって……」

デスクの上は、あまり整理されていない。

途中らしき仕事がいくつか溜まっている。

思えば、何かと上司に声をかけられている。

「あれやってみろ」

「これも見ておけ」

「次はこっち」

……待てよ。

この新人、結構いろんなことやってないか。

「それ、言われたこと全部メモしてる?」

「一応……」

メモ帳を見せてもらう。

……多いな。

本人は「自分ばっかり」と思っている。

でも、見方を変えれば、それだけ色んな仕事を経験している。

本人が思っている以上に、経験値は高いのかもしれない。

「これ、一回整理してみたら?」

「整理ですか?」

「何を言われて、何ができるようになったのか。まだ分からないのは何なのか」

まずはそこからでいい。

最後の一人。

「あれもやって、これもやって。自分、忙しいんですよ」

少し不貞腐れている。

「ここで一番結果出してると思うんですけど、突然これってなんですか?」

……確かに。

いつも飛ぶように動き回っている。

デスクに座っている姿はあまり見ない。

本当にここで仕事をしているのかと思うくらい、何もないデスク。

結果も出している。

ただ、本人がデスクに姿を現すと、確認の電話が鳴り止まない。

「その電話、何の確認?」

「さっきの件です」

「それも?」

「これは昨日のやつです」

仕事は速い。

前にも進める。

でも、通過したところに小さな確認事項を残しているようにも見える。

「次に動く前に、一回だけ今の仕事確認してみたら?」

「確認ですか?」

「うん。これだけ出来てるんだから、最後に一回見るだけでもっと良くならない?」

少し考えている。

まあ、すぐには変わらないか。

自分の仕事をしながら、3人分を見る。

当然、自分のエントリーシートもある。

骨が折れる。

15年働いていると、色んな人に出会うものだ。

そして、同じ人は一人もいない。

自分のエントリーシートを開く。

上司に言われた言葉が残っている。

「お前、自主性が足りないんじゃないか?」

3人には、今あるものを見ながら、次に何を足せばいいのかを一緒に考えた。

じゃあ、自分は。

部署の方向性を知る。

その方向に向かって、自分が何をするのかを考える。

言われてから動くんじゃない。

自分から動く。

……そういうことか。

最初に書いた時より、少しだけ自分のエントリーシートが見えるようになった。

しばらくして、上司から声をかけられた。

「エントリーシート、進捗どうだ?」

3人の顔が浮かぶ。

順調と言えば順調。

完成したかと言われれば、まだそこまではいっていない。

「方向性は見えてきてます」

我ながら便利な言葉だ。

上司が求めているところ。

後輩たちが今いるところ。

その間で答える。

今日も板挟みだ。

そんなある日。

仕事をしていると、最初に見た自信のない後輩が声をかけてきた。

「ここって、どういう意味ですか?」

「ここ?」

改めて見てみる。

……。

なるほど。

「ここ、分かりにくいね?」

少し直す。

仕事はそのまま続く。

しばらくして、今度は10年目の後輩がやってきた。

「セルフエントリーシート、見てもらっていいですか?」

「いいよ。じゃあ、俺のも見てよ」

「いいんですか?」

「自分のって、意外と分かんないから」

10年目と15年目。

二枚のセルフエントリーシートを机に並べる。

「ここって、どういう意味ですか?」

「そこ? 部署の方向性を……」

「それなら、こっちの書き方の方が分かりやすくないですか?」

「ああ、確かに」

今度はこちらが後輩のシートを見る。

「これは?」

「そこ、自分でも迷ってるんですよね」

ああでもない。

こうでもない。

お互いのセルフエントリーシートを見ながら、思ったより話が盛り上がる。

気づけば、さっきの3人もササッと集まってきていた。

「……見てみる?」

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