アラフォー会社員、本部の人がやってきた。

人との関わり

ついに、本部の人が来た。

前日まであれだけ準備していた上司は、朝からいつも以上に落ち着かない。

机の上を確認する。

周りを見る。

また机の上を確認する。

そんなに見ても、昨日から何も変わっていない。

一方で、やりすぎる部下は朝からすでに手一杯だった。

「あれもやらないと。」

「これもまだ終わってなくて。」

本部の人が来たからといって、いつもの仕事が減るわけではない。

むしろ今日は、少し増えている気さえする。

そんな中、上司が言った。

「じゃあ、うちの部署のこと簡単に紹介してもらおうか。」

誰がやるんだろう。

そう思った瞬間だった。

「自分やります。」

別の部下がすかさず名乗り出た。

今日はやけに張り切っている。

チラッと上司を見る。

上司もこちらを見る。

……止めます?

……いや。

そんな会話を目だけでした気がした。

もう手は挙がっている。

止められない。

自分は自分の仕事に戻ることにした。

勢いよく始まった部署紹介。

業務内容。

一日の流れ。

最近取り組んでいること。

最初は良かった。

ただ、途中から少しずつ着地点が見えなくなっていった。

「えーっと……あとは……そんな感じです。」

本部の人は笑顔で、

「ありがとうございます。」

と答えた。

終わった。

思っていたより、ずいぶんふわっと終わった。

上司を見る。

今度は目が合わなかった。

部署紹介がふわっと終わったものだから、本部の人はやることがなくなった。

少しして、

「何か手伝えることありますか?」

と声をかけてくれた。

すると、さっきの張り切っている部下がすかさず反応する。

「じゃあ、これお願いしてもいいですか?」

差し出したのは、急ぎでもなければ、本部の人にお願いする必要もなさそうな仕事だった。

本部の人は嫌な顔ひとつせず、

「やりますよ。」

と笑顔で引き受けた。

さすがだ。

ふと顔を上げる。

上司と目が合った。

何も言っていない。

でも分かる。

なんとかしろ。

そんな圧を感じる。

いや。

さっき止めなかったの、そっちですよね。

ところが、本部の人はその仕事をテキパキと片付けた。

思っていたより、ずっと早い。

「終わりました。他に何かありますか?」

張り切っていた部下も、さすがに次に何を頼めばいいのか分からなくなったらしい。

そこで本部の人の視線が、朝から仕事を抱え込んでいる部下へ向いた。

「それ、手伝いましょうか?」

「え、いいんですか?」

そこから、本部の人は抱えている仕事を一つずつ見始めた。

「これは今日中ですか?」

「これは誰かに確認が必要ですか?」

「こっちは、今やる必要あります?」

部下は、

「あれもやらないといけなくて、これもまだで……」

と答える。

本部の人は仕事の量に驚くでもなく、淡々と整理していった。

そして、ふと聞いた。

「これって、最終的に何のためにやってるんですか?」

部下の動きが止まった。

「……えっと。」

どうやら、よく分かっていないらしい。

核心を突いた質問だった。

でも、決して問い詰めている感じはしなかった。

本部の人は答えを急かすこともなく、

「一回整理してみましょうか。」

と、そのまま話を続けた。

自分は横でそのやり取りを見ていた。

今まで自分は、

「それは今やらなくていい。」

「そこまでやらなくて大丈夫。」

そんなふうに、仕事を抱えすぎないように止めることばかり考えていた。

でも、本部の人が聞いたのはもっと手前だった。

そもそも、

何のためにやっているのか。

やるか。

やらないか。

その前に、本人に考えてもらう。

なるほど。

そこか。

そんなところへ、またあの部下がやってきた。

「それ、何やってるんですか?」

……来た。

本部の人。

仕事を抱え込んでいる部下。

そこへ、張り切る部下まで参加する。

午前中だけで、ずいぶん賑やかになった。

たまらず上司が言った。

「……ちょっと早いけど、昼にするか。」

その一言で、さっきまでの賑やかさが嘘のように、デスクがそそくさと空いていく。

気が付けば残ったのは、

本部の人。

上司。

そして自分。

三人だった。

少し間が空いた。

「一緒にいかがですか?」

本部の人を昼食に誘った。

午前中のこと。

職場のこと。

色々と話した。

「普段もこんな感じなんですか?」

本部の人が笑いながら聞いてきた。

「それぞれ課題はありますけど、なんだかんだ和気あいあいとやってますよ。」

そう答えた。

今日の上司は、なんだか静かだ。

午前中はあれだけ気合いが入っていたのに。

黙って昼飯を食べている。

何を考えているのかは分からない。

少しして、自分から本部の人に聞いてみた。

「さっきのやり取りって、どういうところを見ながら話してたんですか?」

「さっき?」

「仕事を抱えてた子との話です。核心を突いてるのに、全然問い詰めてる感じがしなかったので。」

本部の人は少し考えてから答えた。

「本人が何を分かっていて、何が分かっていないのかを見るようにはしてますね。」

特別なことをしているような言い方ではなかった。

でも、自分には十分だった。

質問するというのは、

答えを聞くためだけではない。

相手自身に整理してもらうために聞くこともある。

横で見ていただけだった。

それでも、少し学んだ気がした。

昼休憩も終わる頃。

今度は自分から声をかけた。

「今の仕事がひと段落したら、少し相談したいことがあるんですが。いいですか?」

「もちろんです。」

午後。

自分が進めている仕事について、本部の人に相談してみた。

「自分ではこう進めようと思ってるんですけど、本部から見るとどうですか?」

自分の考えを伝える。

本部の人の視点を聞く。

「ここは先に確認した方がいいかもしれませんね。」

「この部分は、別の人も早めに巻き込んだ方が良さそうです。」

自分では見えているつもりだった。

でも、違う場所から見ると見え方も変わる。

何度かすり合わせていくうちに、少しずつ方針が見えてきた。

仕事を任されることが増えると、自分で判断する場面も増える。

でも、だからといって一人で全部決める必要はない。

どれだけ仕事を任されるようになっても、

自分とは違う視点を取り入れることは大事なのかもしれない。

そんなことを考えながら、自分の席へ戻った。

朝から仕事を抱え込んでいた部下が、少し落ち着いた様子でこちらを見る。

そして言った。

「そういえば、本部の人って何しに来たんですかね?」

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