アラフォー会社員は、本部の人が来るまでに。

人との関わり

「前にも言ってたと思うけど、来週から本部の人が来るから。みんなよろしくな」

どうやら、本部の人が3か月限定でうちの部署に来るらしい。

上司は現場の叩き上げでここまで上がってきた人だ。
そりゃ、気合いも入るだろう。

俺もこれまでの経験上、何を見るのかはなんとなく想像がつく。

とはいえ、具体的に何をしに来るのかまでは聞いていない。

上司は腕まくりをして、普段はほとんど触らない掲示物の整理を始めた。

「それ、やりますよ」

すぐに一人の部下が駆け寄る。

「そうか。じゃあ、ここ頼むよ」

上司は少し嬉しそうだった。

「これも直した方が良くないですか?」

「そうだな」

どうやら上司は、ものすごく機嫌が良いみたいだ。

「じゃあ、本部の人が来るまでの整理整頓は任せたよ」

そう言って、部下の背中をポンと叩いた。

「任せてください」

「アハハハ」

少し離れたところで、もう一人の部下が笑っていた。

次の日の朝。

出勤すると、張り切っていた部下がすでに部署の掃除をしていた。

その次の日も。

さらに次の日も。

……こんなんで一週間持つのか?

その横で、もう一人の部下はいつもニヤニヤしている。

「今日もやってますねぇ」

人ごとのように笑っている。

……こいつ、本部の人が来ることを本当に分かっているのだろうか。

数日すると、掃除の熱は少し落ち着いた。

今度は整理だ。

「ここも整理しましょうか?」

「これもやった方が良いですよね?」

一日に何度も上司のところへ確認に行く。

最初は嬉しそうだった上司も、少しずつ表情が変わってきた。

そんなある日。

いつもニヤニヤしている方が、上司に呼ばれた。

「あれ、どうなってる?」

「この前頼んだやつは?」

「本部の人が来るの、分かってるよな?」

どうやら、全然進んでいないらしい。

「すぐにやります」

言い訳はしない。

人前で指摘されても、非があれば素直に認める。

そこは、こいつの良いところだ。

ただ、いつもならここで雷が落ちる。

「それ、自分やりますよ」

張り切っている方が口を挟んだ。

……いや、お前はもう十分抱えてる。

ふと上司を見る。

ちょうど向こうもこちらを見ていた。

目が合った。

このままだと、本当に雷が落ちそうだ。

せっかく機嫌が良かったのに。

まずは張り切っている方に声をかける。

「もしさ、本部の人に今やってる仕事のここを聞かれたら、どう答えようと思ってる?」

少し考えて、答えが返ってきた。

「じゃあそこ、もう少し整理しとこうか。ここ手伝ってほしいんだけど、良いかな?」

「あ、はい。やります」

次はもう一人だ。

「お前もここ、聞かれた時に困らないように準備しといた方が良くない?」

「そんな細かいところまで聞いてこないですよ」

笑っている。

「いや、なんか結構細かい人らしいぞ」

「そうなんですか?」

「ちらっと聞いたんだけどね」

「なんかヤバそうですね」

「そうでしょ? 少しだけ具体的に準備しといても良いと思う」

「すぐにやります」

少し危機感持ってくれたか。

上司の視線を感じる。

とりあえず、ここはなんとかなった。

それから二人は、なぜか上司ではなく俺のところへ確認に来るようになった。

一人には、やることを減らして得意なことに集中してもらう。

もう一人には、あれこれ考える前に目の前のことをやってもらう。

一人には「そこまでやらなくていい」と言い、
もう一人には「そこまではやってくれ」と言う。

同じ準備なのに、二人に言っていることはまるで逆だった。

一応、進み具合を上司に報告する。

「二人とも、大体準備できてます」

「そうか。助かるよ」

そこで一つ確認しておく。

「……で、本部の人が来た時って、俺も対応するんですか?」

「この前頼んだだろ」

一瞬、何のことか分からなかった。

そして思い出す。

上司と二人で飲んだ帰り際。

「本部の人が来るから、よろしく」

……あの「よろしく」は、本気だったらしい。

その後も二人の確認に付き合いながら、ようやくおおよその準備が整った。

上司も一通り確認して、頷いた。

「よし。それで行こう」

なんとか間に合った。

その時だった。

「準備してて思ったんですけど」

いつもの彼が口を開いた。

「本部の人って、何しに来るんですか?」

この話の始まりは、前回のサシ飲みから。

どうやら、あの「よろしく」は本気だったらしい。

アラフォー会社員は、上司の背中を追いかける。
「今日、ちょっといいかな?」仕事が終わる少し前。上司にそう声をかけられた。何か話でもあるのかと思っていると、「行くぞ。」時刻は17時ちょうど。そして周りに向かって、「みんな今日は早く帰るように。」とだけ言った。なんだこれ。何か怒られるのか。…

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